オーストラリア都市部の賃貸クライシス

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シェア物件が枯渇してるだけなく賃貸市場も枯渇してるような感じなんで、何故なんかなと思って調べてみたら、こういう記事がありました。RealEstate Comという不動産探しサイト、いわゆる業界紙の分析論考です。
“Sydney rental market: vacancies hit historic low, why it might get worse”

詳細は記事を見てもらえばわかりますが、要旨を述べると、
・まず客観情勢としては、空室率は歴史的な低水準にある
・全国でみると多くのエリアで賃借物件数が減少している(タスマニアだけ増加している)
減少率が一番激しいのはメルボルンで33%減、シドニーで24%減、タスマニアは17%増
・比例して、一件あたりの需要は、メルボルンで46%増、シドニーで27%増
・理由として推測されるのは、
(1)海外からの移住者の増加
(2)また新規住宅投資の減少
(3)テレワークの収束で地方から都会に人が戻ってきていること
・結果として、都会エリアの賃料は3-4%の増加(都会平均485ドル、地方450ドルでそんなに差がないのも意外なんだけど)
・大きな枠組みが急に変わるとも思えないので、この傾向はしばらく続くだろう

他の最近の記事をみると、なかなか賃貸物件が手にはらないので、bid方式をやってる家主もあるので、政府はこれを禁止する法律を作るらしいという記事があります。bidというのは、要するにオークション、「競り」「入札」で参加者がどんどん値を吊り上げていくあれです。
実際、需給バランスでいえば賃料だって30%くらい上がっていても不思議ではないのに、3-5%でとどまっているわけで、実態に即していない。しかしbidを認めて実態に即してもらったら、もっと家賃が激しく上昇しちゃうから、抑えると。抜本的な解決になってないんだけど、しかし、bidにしようが何にしようが、希望者30人に部屋一つだったら30分の1の競争率は変わらないわけで、bidにしたから入りやすくなるわけでもない。ただ家賃がクソ高くなるのを助長するだけだから、禁止ってことでしょう。

bid関係の参考記事
NSW government to crack down on rent bidding

★私見

わかったような解説ですけど、なお疑問は残るのですよね。
海外からの移住者増加とテレワーク収束による都会回帰はわかるんですけど、しかし、これって要するにコロナ前に戻るだけのことです。たしかのコロナ期は賃貸物件余りまくりで安くなってたから、これがもとに戻るのはわかる。だけど、コロナ前は、そこまで賃貸危機ではなかったわけで、もとに戻ったというだけで、ここまで空室率が下がるというのは解せない。

そこでもう一つの理由として、新規住宅投資の減少、これだと思います。なるほどねと。
新たに不動産投資をしようという人が減っている、てかガタ減りしている。それはそうでしょう。コロナ期に不自然にあがった価格は、今減少して戻りつつある。結局コロナ期に買った人は典型的な高値づかみをしたことになる。しかし、それを超えてアメリカなどでも不動産バブルの崩壊と言われつつあるし、もっともっと下がるかもしれない。だからおっかなくて買えない。
と同時に、先進国の潮流として金利がやたら上がってます。インフレ対策とかいうけど、全然インフレ収まらないから役に立ってないのだけど、それでもあげようとしている。結果として、住宅ローンが使いにくくなっている。返済金利が高いからローン計画が破綻する、てかそもそも銀行が怖くて融資できない。

ファースト・ホーム・バイヤーといって、初めて不動産を買う人の層があります。いよいよ頑張ってローン組んでマイホームをゲットする人達ですが、彼らが二の足を踏む。またやりたくても銀行の審査が通らない。
これまでだったら彼らが新規に物件を買って、そこに住んで、ローン返済のために空いてる部屋をシェアに出したり、あるいは自分らはいままでのところに住んで新居を賃貸に出したりして(ローン返済のために)する。彼らの動きは、2つ意味があって、一つは彼らが新居を買うことで、これまでの賃借物件から出ていくから、賃借市場に出物が増える。出ていかなくても新居を賃貸にだすから、この意味でも賃借物件は増える。でも、そういう動きがないから、賃借の新規出物が減る。

あるいはファーストバイヤーではない投資家の場合、投資として買って、それを賃貸に出しますから、そこでも賃貸新物件が出回る。しかし、いまは投資ができる環境ではない。手控える。だから新件が出て来ない。

ということは、こういう循環、つまり一定数の不動産購入者がいることで、コンスタントに賃借市場に新件が供給され、それで全体のバランスが保たれていたのが、止まってしまったから、需給が逼迫しているという理屈です。

でもね、新規に不動産を買おうが買うまいが=物件所有者の変動があろうがなかろうが、建物それ自体はそこにあるわけですよ。建物それ自体が増えたり減ったりするわけではない。所有名義の変動でしかない。

究極的には、人と物(建物)の関係であり、人が3%増えたら、建物も3%増えないと需給バランスは逼迫する。新規着工はどうかというと、調べてないけど、街を見た感じでは、ぼつぼつ増えてはいるような気がする。いっとき静かだったんだけど、あちこちでそれまでほったらかしだった敷地に新規マンションを着工してたりするから増えてはいるんだろうなーと。でも、それで買い手が居るのかどうかですね。
一方、人がそんなに増えているのか?といえば、これも怪しいです。コロナ時期に比べれば増えてはいるけど、コロナ前に完全に戻ってるか?というと、それも微妙ですね。少なくとも超えてはいないんじゃないか。

あと需給バランスだけではなく、回転率というのがあります。
100の人口に100の建物があり、毎年全員が家を変えるのであれば、1年の間の全員分の建物が市場に出るからチャンスは増える。でも100人に一人しか家を替えないのであれば、1年間に1件しか出物がないことになり、それをめぐって熾烈な競争になりかねない。これは絶対数的な需給バランスとは微妙に違うと思いますね。

私見としていえば、この回転率の方がネックなんじゃないかなーという気がしますね。

でも回転率というのは、要は気分の問題でしょ?皆が移りたいなー、動きたいなーと思って、ガンガン動き出せば回転率は上がるし、市場に出てくる物件も増える。だけど、誰もビビって動かなかったら新規出物は少ないから膠着する。
ああ、これって、お金と同じですよね。誰もがビビって買い控えると景気は下がる、下がるからますますビビって買い控えるから悪循環になる。誰もがイケイケになって買いまくると景気は上がる。上がるから気が大きくなってますますイケイケで買うという。

そのあたりよくわかりませんが、経済なんか究極的にはメンタルだとよくいいますが、たしかに。だけど、メンタルだから分かりにくいんですよねー。予想もしにくい。実際、経済予測くらい頻繁にはずれるものはないし。

 

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