銀橋~東野田の交差点 大阪市都島区京橋界隈
(最近オンラインサロンばっかで書いて、本家の方が寂しいので、向こうからいくつかを紹介します。思い出の(現在の)土地についての随筆や紀行文の部屋(忘れ得ぬ風景)から)
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「銀橋渡って、東野田の交差点のあたりで」
というのが、大阪在住時代、タクシーで帰宅するときの定番のセリフ。
大阪には結局6年以上住んでいたのだが、大阪時代には一度も転居せず、ずっとこの東野田の交差点あたりに住んでいた。最寄り駅でいえば京橋駅、それか桜ノ宮駅。
区でいえば都島区。「みやこじま」と読み、「としま」ではない(東京からくると、豊島(としま)区つながりで何となく「としま」と読んでしまいがち)。
関西エリアは、大学入学からべったと京都に7年住んでいたけど、大阪と京都は全然違う。高校卒業まで東京圏だった自分からしたら京都も大阪も似たようなもんだろうと漠然と思ってたのだけど、こんなに違うとは思わなんだ。
京都は狭い盆地であり、周囲のどこを見ても大体山が見える。どこを歩いても寺社仏閣の嵐。タテに貫く鴨川や桂川。真ん中にだだっぴろい御所がある。つまり自然なり寺社なり「容れ物」がわりと優れているので、それだけで結構楽しめる。
しかし大阪は心を癒やすような自然はほとんどなにもなく、これといった寺社もない。その代わり「人」がいる。もう「人」、そして人が織りなす文化だけが大阪にはある。
この京橋界隈もブレードランナー的というか、サイバーパンクのようなむっちゃくちゃなエリアで、駅裏の方は戦後の闇市からそのまんまカオスが続いているような繁華街がある。新宿の裏町的な。アジア的な。
関西の人なら誰でも知っているグランシャトービルもある。僕も初めてTVで特異なCMを見て、なんじゃ、こりゃあと思った。「京橋は、ええとこだっせ、グランシャトーがおまっせ」おいうコテコテの大阪弁と、戦後直後の日本のファンキーさ(ちんどん屋のファンキーな感じ)が炸裂している。一回聞いたら耳について離れない。
でも駅の反対側は、新宿の高層ビル群のような、やたら整備されたOBP(大阪ビジネスパーク)がある。人口密度の差が百倍以上ありそうな、整然がらんとしたエリア。その落差がすごい。なお、さらに南にいくと、もっとガランとした大阪城公園がある。ホールもあり、そういえば自宅から原チャで飛ばして5分なので幾つかのコンサートを見た。Xのコンサートも、エリック・クラプトンも、米米CLUBもここで見た。
東野田は京橋から歩いて数分というエリアで、ここまでくると住宅街になっていくのだが、駅からの道を歩いていくと小学校のすぐ真向かいくらいに地味なソープランドが当たり前の感じであったりする。だけど、誰も気にしない。
東野田の交差点のすぐ南は(最近不況で潰れてしまったが)由緒正しい太閤園という日本庭園と式場がある。自分のマンションは、その太閤園の真裏にあって、部屋のベランダからは塀沿いに生い茂ってる大きな樹木の連なりがあり、まるで森(それが気に入った決めた)。夏場は群生している蝉がめちゃくちゃうるさい。
交差点の北側をしばらくいくと、妙にだだっぴろい通りが多く、角に今で言うドンキの走りのようなバッタ系ショップがあったり、朝顔の鉢が並んでるしもた屋があったり。そしてその先には全国的にも有名な「桜ノ宮のラブホテル街」がある。いまはいっときよりも毒々しくはないだろうが、バブルの頃やその前は、毒々しいのが美徳であるかのように、覇を競うようにハデハデな佇まいが続く。屋上に地球があったり。小ぶりのラスベガスのような感じ。
ちょっと抜けると川沿いの感じのいい公園であり、川向うを結ぶ橋を通称「銀橋」という。
銀橋を渡って向こう側(北区、梅田やキタ)にいくと、いきなり古めかしい明治風の建物があり、これが造幣局。桜の季節には、「造幣局の通り抜け」という桜の名所になり、善男善女が鈴なりとなって見物に来るわ、川沿い公園には延々出店が続くわ、その帰りの酔客達が僕のマンションの前の裏道を深夜に至るまでわめきながらぞろぞろ歩くので、うるさかった。
わずか1-2キロそこそこの範囲に、現代的なオフィス高層ビルがあり、そのまま歴史保存物にしておきたいような戦後日本の佇まいが残ってる町並み(しかも現役でフル稼働している)、ベガスのようなラブホテル街があり、造幣局がある。
しかし、最も特筆すべきは、そういったカオスを「それがどないしてん?」「こんなん普通やろ?」と何事もなく呑み込んでしまう普通の住宅街であり、普通の人々である。
久しぶりにGoogle Viewで見たけど、なんかずいぶんマンションが増えて、漂白されてしまって、昔のワイルドの感じではなくなったような。
ワイルドと言えば、僕が入居した最初の日に、設置し直したばかりのテレビのニュースを見てたら、通り魔事件があって人が殺されてた。どっかで見たことあるなと思ったら、すぐ近くの京橋駅だった。
住み始めて2-3ヶ月シたときに、家に泥棒が入って現金を持っていかれた。が、プロの仕事で、廊下に面してる窓の鉄格子(って安っぽいアルミだけど)をきれいに外して侵入し(現場をみた警察さんの話)、なんの痕跡も残さずに引き出しの奥にほおりこんでおいた金だけとっていったので、しばらくは気づかなかった。
そうかと思えば、どっかの部屋で夫婦喧嘩やら痴話喧嘩がものすごく、DVというよりもプロレスみたいで、女性の方も全然負けておらず喚き散らし、さらに部屋から飛び出し場外乱闘のように廊下やら階段やらバトルが展開されていた。最初はびっくりしたが、だんだん「またかよ」って慣れっこになっていった。
車ではなく原チャで飛び回ってたが(都心ではこっちの方が便利)、原チャも何度か盗まれかけた。
犯罪ではないが、関西淡路大地震のときも、ここで寝てて遭遇した。目が覚めたら、上空からクソ重い法律全書が雨のように落下してくる光景だった。
いいんだか悪いんだかようわからん街だったけど、結構気に入って住んでました。
なんというか「人の業」みたいなのが、スポイル(疎外)されず、サニタイズ(殺菌)されず、「原種」のまま普通にある感じが好ましかったのですよね。それは大阪一般に言えることだと思うけど。天王寺界隈とかいくと、さらにもっと濃いよなー。
でも日常を過ごす分には普通に平和で、そして近所のどこで外食しても、信じられない美味しくて、くいだおれ大阪の底力を見せつけられました。上位店(ミシュランとかの)が美味いのは、高くて行けないのであんま関係ないのよね。大事なのはお財布に優しい庶民クラスの店が美味いかどうかです。その意味でいえば大阪は抜群にレベルが高い。グランシャトーも話のネタにはいったけど、あんな冗談みたいなビルなんだけど、めちゃくちゃ美味しかった。
オシャレじゃないし、トレンディー(死語)ではないんだけど、ずっしり実が詰まって、やたら美味しい変な果物みたいな街です。