ひじやさんから「アニメ作品ができました~」とお知らせをいただき、見たところ、これがなかなか感動モノで。マッチ売りの少女まんまなんだけど、ベタのようでありつつ、不思議に浮遊感や透明感があったり、かなり詳しく製作意図などメールでお聞きしました。私信で収めて置くのは勿体ないのでシェアしましょ。
WHO?
Ayumi Hijiya(土屋)さん、何年か前からシドニーオフでちょくちょく参加していただいてました。直近では、皆の近況(その2)いちばさん、鎌田さん、ひじやさん(20年11月06日)で、そのときの要旨は「4月に日本に帰国、岡山におられて、デザイナーとしてフリーランスで仕事をゲットしつつ軽いギグエコノミーをこなし、「ここ3ヶ月は捨て猫ちゃんを生後1日目から拾ってきてお世話をするという善行を積むことに忙殺」、来年(今年)に東京移動し、デザイン職と並行してフリーランス、その後の「(海外)野望」もあるけど、「一つ一つ行動を起こしていくうちに、具体的に「いけるじゃん」というイメージが湧いてくると思うので、それまで頑張ります」ということした。
その際、追伸で「今は一つ個人的にショートアニメーションを作っている最中なのですが、それが近々完成しそうなので、完成後にネットにアップしたものを是非ご覧頂きたいです!」ということでしたが、それが完成したということでお知らせいただきました。
作品
これはまず音楽が死ぬほど良くて、あと色彩感と、全体のセンス~ベタなんだけど妙に浮遊している透明感とか、いろいろ聴きたいことが山程出てきたので聴いてみました。
製作意図とインタビュー
★なぜこれを?
位置づけというか、これまでのアートキャリアの延長線なのか、総集編なのか、新挑戦なのか、そのすべてを含んでいるか。
アート表現は無限なのですが、そこから二次元アニメを選んだのは?
もうちょい言うと、童話や絵本系が作りたかったのか、それともアニメという手法をやってみたかったのか?です
→位置付けとしては、新挑戦です。もとはと言えば、シドニーで通っていた学校でモーショングラフィック(モーショングラフィックとは、グラフィックに動きをつけたものです)についてゆるく教えてくれる先生がいたのですが、彼のクラスで、ある日キャラクターをAfter Effects (エフェクト、モーショングラフィック、一部3DCG、実写合成などができるadobeのソフト)で動かしてみる、という授業があって。その時、とても楽しさを感じたのですね。自分が作ったキャラクターのグラフィックが、実際に画面の中で動く、という心躍る楽しさ。
その後、練習の一環で何かキャラクターを動かすミニ動画を作ろうかな、ということになって。当初は5分を超えるアニメにする予定はありませんでした。あくまで練習用のスモールプロジェクト、という感じで。ただ実際に始めてみたら、こういう感じにしよう、ああいうキャラクターも出してみたい、背景はアラビックなテイストで、キャラクターはcharacter animator(2Dアニメの動きを作るソフト)を試しに使ってみて、よりキャラクターの動きにバリエーションを加えよう、と頭の中でどんどんイメージが膨らんで凝ったものになっていき、最終的にこのようなアニメになりました。
アニメが2Dなのは、3Dのソフトの扱い方を知らなかったからです。そして肝心なところですが、どうしてマッチ売りの少女を選んだのかは、今となっては私も覚えていないです。
★音楽について
まず音楽が抜群にいいです。この音楽サイトは最初から著作権フリーという感じなのかな?
でも、無限にある曲のなかからよくこれを見つけてきたなー。そこが一番凄いと思ったのです。
これって、日常的に探しているのですか?いいもんないかなーって。
どっちもピアノだけど、一曲目のペダル踏みっぱなしのリバーブのかかった音で、二曲目が対極的にレアな音、特に超高音部がそうで、これは対比的な意図とかはあったのですか。
→いずれの曲もArtlistというサイトで見つけました。著作権はフリー(購入時にライセンス証明書みたいなものまで発行される)で、自分で手を加え編集することも可能という権利付きです。義務ではないですが、曲を作った彼らに敬意を表すために動画の説明文にクレジットを載せています。
曲探しはアニメを完成させてから行ったのですが、想像以上に時間がかかりました。まずはAudio素材サイト探しから始まり(サイト探しはこのリンクを特に参考にしました。
その中から5個くらいのサイトに絞り、あとはひたすら視聴を繰り返しました。
方法としては、最初の5-10秒くらい聞いて、違うと思ったら速次に、おっ、と思ったらそのまま聞いてみる、をひたすら繰り返しました。
音楽のイメージは、上手くアウトプットすることはできないのだけれど頭の中に既にあったので、聞けば直ぐに分かり、絶対に探し当てることができるという妙な確信がありました。
勿論、視聴する中で方向性が微調整された、というのもありますが。最終的に数千曲は聴いたのではないでしょうか。
2曲ともピアノを選んだのは、アニメができた時に音楽はピアノだな、というイメージがあったので。それぞれを対比させる意図は無かったです。
曲を購入した後は、アニメと音楽に多少手を加えて両者を擦り合わせていく、という作業をしました。ドラマチックに盛り上がるところでおばあちゃん登場、とか、曲の区切りで次のシーンに移る、だとか。楽曲をカットしたりピッチを早めたり伸ばしたり、アニメの尺を長くしたりして調整しました。
YouTubeで見ると、ご本人の解説で曲の詳細が記されています。
★作画について
(1)まず意図的だと思うけど、背景とかすごい奇妙にしてますよね。
町の全景が最初に出てくるのだけど、ヤシの木らしきものがあり、サボテンがあり、これはアラビアの月の砂漠か、それともラスベガスかって感じ。
そこに雪が降って、凍死するという、明らかに変なんですけど、これはなにか意図があって?
→もともと整合性が取れすぎた世界や物が好きではない、という自分の好みが反映されているように思います。Aの世界で出てくる食べ物は当然Bであり、Cが道先に見えたら、角を曲がった先にあるのはDだ、というような。
インドのマサラのような、色々なテイストがぐちゃぐちゃと飛び出してきて、一見ちぐはぐで奇妙なんだけど、ズームアウトしたら何だか意外と全体的に上手くバランスが取れているような気がする、そういうイメージが自分の中にあります。どこかにありそうで、どこにもないような世界を作りたかったです。
(2)あと、街の建物のデザインがイスラム風ですよね。
丸い雪だるまみたいな形をした窓枠とか、モザイク的な意匠とか。
→はい。町の風景はモロッコ、私たちが”アラビア”と聞いた時に思い浮かべるテイストを思い描いて作成しました。
以前にモロッコをバックパッカーで旅したことがあるのですが、そこで見た街の景色、多彩な色遣いのランタン、ファンタジーの世界のようなインテリア、カラフルに積み上げられたスパイス、鮮やかな壁の色に映える花、乾いた広大な山々、などがとても印象に残っており、あれらをメインにアニメの世界観に取り入れたいと思いました。
具体的には、シェフシャウエンという”ブルーシティー”と呼ばれている街があるのですが、そこの建造物を主に参考にしました。
(3)次に、色彩の綺麗さです。バブルの頃の華やいだ感じで、彩度も明度も高い色使いをしています
→もともと、カラフルな色遣いや世界が好きなのです。
(4)、以上の(1)-(3)によって本来違和感バリバリになりそうなんですけど、なっていないところがすごい。
それよりも、もともとが超重たい物語を、不思議に浮揚させて抽象化、透明化するような感じがあります。そのような意図は?
→特に何かを意図していたわけではないです。先の質問でも回答した通り、整合性が取れすぎたものが好きではないので、どこかにありそうで、どこにもないような世界を作ろうと思った結果、どこかで起きてそうで、どこでも起きていない世界になったのかもしれません。
(5)マッチ売りの少女が、なかなか情熱のラテン系っぽい感じですし、また、幻影に出てくるおばあちゃんが妙の若くて化粧が濃くてケバかったりするんですけど、このなんというのか艶っぽい感じ?とても人間的な熱量が感じられる造形になってて、それがいいなと思ったんですけど。
つまり、こういういい(悲しい)話って、妙に漂白しすぎて、善人過ぎてリアリティがないとかになりがちなんだけど、これはすごい肉感的で、それがいいなと。生命力みたいなものが感じられて。
→ありがとうございます。マッチ売りの少女がラテン系とは、確かによく見てみたらそうかもしれません(笑)。
各キャラクターにはそれぞれ朧げにイメージがあり、例えば最初に出てくる豹柄のワンピースを着た女性は、中近東、特にアラビア半島に、ややアフリカンの血も入ったエキゾチックな美女、親子連れはカザフスタン辺りのロシア圏のバザールにいる感じ、男性はロシアというより旧ソ連の高圧的な役人、最後の女の子はバルト三国の素朴で親切な子。。。という感じです。
当初キャラクターがそれぞれ喋る予定だったので、声のイメージまでありました。
マッチ売りの少女に関しては、この子を何とかして幸せにしてあげよう、報ってあげよう、と思いながら作っていました。おかしいですよね、悲しい結末なのに「何とか幸せにしてあげよう」って。だけど本当にそう思っていました。ちなみにおばあちゃんはケバくないですよ(笑)
(6)こういう誰もが知ってる物語というのは、全員が知ってることを前提にして、どこを端折るか?どこのデテールを書きこむかの判断が難しいと思うのですよ。
特に全然売れない最初のシーンが長いわりには、窓から楽しいそうな子供達の姿をみて落差に傷つくとかいうシーンはないです。また、何度もマッチを擦ってというのも1回だけになってます。そのあたり製作者的には、どんな感じで作ってましたか?
→全てを1から10まで丁寧に説明する必要はないと思っていました。それに仮にそれをしようとすると、一人で作っていたので、本当に時間がかかる。マッチ売りの少女は、ある程度は世界的に市民権を得ている童話だと思っているので、主要なところを押さえて、あとは見る人の想像力で補ってもらうことができるのではないかと思いました。原作に忠実に物語を作ると言うよりも、冗長にならず勢いよくコンパクトにまとまった映像作品を作るというイメージがより強くあったので、今回はこのようになりました。原作に関しても、忠実に作るというよりは、自分で足したり変えたりしています。猫も本来は、原作には登場しませんし、少女は通行人に死んでいるところを発見されたりします。
確かに。猫二匹の存在はかなり大きな「救い」になってますよね。
★今後の製作予定と、それと日々の生計というナマい話
僕らは皆、2つの物語を同時進行で織りなします。片や自分のやりたい世界を広げる物語、片や日々の生活の資を稼ぐ物語。いつかはこの2つの物語が合体したらいいなとか思うのですけど、いまどんな感じですか?
→今は自分のスキルを売って生計を立てています。
具体的には、グラフィックデザインです。表現活動は今後もずっと続けていく予定です。今回は2Dアニメでしたけど、特にアニメや2Dに拘っているわけではないので、次回はどのようなものを作るだとかは、現時点では全くわかりません。新しいソフトウェアを使って新しい表現をしたくなるかもしれないですし。
それと並行して、他者からの評価に晒される、という過程も絶対に必要だと思っているので、作った作品を例えば国内外問わず何らかのコンペだとかに応募してみるだとか、そういうことも考えています。
以前友人に「好きでやっていることは、やり続けていたら、不思議といつか何らかの形で仕事に繋がるんだよ」というようなことを言われてことがあります。その真偽は分かりませんが、この質問を見てふと思い出しました。
回答は以上です。
遅くなってしまったこと、お詫び致します。
そしてこの度は、このような作品について語る場を設けて下さり、本当にありがとうございました!
自分でも無意識だったことや気付いていなかった視点が引っ張り出された感じで、短時間でそこまで色々と発見する田村さんの感受性と鋭さに驚嘆しました。
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以上です。
この作品は、上のYouTubeだけではなく、Viemoにもあります。
https://vimeo.com/497158202
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