伊藤さんの「洳(うるお)」という難しい漢字は「芸名」です。劇団やってたんで芸名アリつか、なんかこう潮が満ちていくような感じがいいんでしょうねー。でもって、歴女でもあります。歴女といえば石川三奈美さんを思い出すけど、彼女も詳しかったなー。
伊藤さんは資金難ってこともあって(30万くらい)、正規の一括パックではなくライトプランの1日だけコース。結局なんだかんだで正規以上にやってるような気もするが(笑)、いいです。「必要なことをやるだけ」というのがモットーで、、いやそんなカッコいい経営哲学とかじゃないな、必要なことを「やらない」ってのが生理的に気持ち悪いだけです。
伊藤さんの場合「必要なこと」が結構ありました。伊藤さん個人の資質ではなく、多くの同じような立場の日本人だったらそうなるだろうなって普遍的なパターン。
金欠への祝福の鐘
つまりは、お金問題。
最初のメールの段階からそうだったんですけど、総予算が少ないから第一課題はお金で、第二の課題もお金で、最終課題もお金で、もう金金金になってしまう点。まずそれを打破しないと、ビビって、ケチって、爪に火をともすように息を潜めて暮らして、まるで森の小動物のように、いや葉っぱの陰のゲジゲジのようにしてWH終わってしまいます。ひいては人生も終わってしまいます。ああ、もったいな。この悪循環は打破する「必要」があると思いません?
ということで先に紹介した田中くんよりも一週先に来たんだけど、学校見学もシェア探しも後回し(田中くんとのジョイント)にして、最初の一週間はお金対策=バイト探しに宛てました。初日1日コースで「現地一人前基本インストール」(空港出迎え、Opal Card利用法、携帯SIM開通、超サバイバル英会話、バッパーチェックイン)に加えて、その場で英分履歴書を作ってプリントアウトして、Officeworkでコピーする方法まで教えました。この履歴書部分がいつもと違うところで。
金が無い不安はすごいよく分かる。あなたも多分すごくよく分かるでしょう。やばいよね、怖いよね、もうそれしか考えられなくなるよね。でも、金が無い状態への根本的にして唯一の解決方法は「稼ぐ」ことです。「減る」のが嫌なら「増やす」しかない、という子供でもわかる理屈。子供でもわかることは大体正しい。逆に「大人の事情」とか大人しかわからないことは大抵において本質的に間違ってる場合が多いよね。
ということで最初の一週間は、「なーんだ、金なんか稼いだらいっくらでも入ってくるじゃん!心配して損した」って思えること、強がりでも何でも無く、心底、当たり前にそう思えること。そこまでいかなくても、その道筋について当たりがつくこと。とにかくこの不安心理が何をするにも邪魔くさく、何をするにも強烈な敗北要因になるから、もう先に取っちゃいましょってことです。
で、今のシドニーのジャパレス状況だったら、楽勝すぎるくらいに楽勝です。シドニーに700とか800店という単位で至るところにあるわ、人材供給源のWH・留学生は人の回転早いからすぐに空きがあるわ。いつもいうけど金が無くなったらお金を「おろしにいく」ATMみたいなありがたい存在です。数年前まで時給8ドルとか10ドルとかいってたのに、今ではどんなに安くても15は出るでしょ?もう倍とかそのくらいで、本国(日本)のジリ貧給料に比べれば夢の所得倍増計画だもんね。それに比べればシェア代はそんな上がってないし。
それにメンタル的には金がない時が最強なんですよねー。真剣にホームレスや餓死の危険を感じてきたら、仕事なんか選んでらんない!死ぬよりはマシって思えますからねー。思い切りがつくというか。「うちはキツいよ、新人は便所掃除とかやらせっけど、いい?」とか言われても、「もちろんです!便所掃除、いいじゃないですか、大好きです、是非やらせてください!」とか言えるしね。死ぬよりはマシだし。
何を言ってるかというと、新しい環境に入るときは誰でもイヤなものです。どんなに求めてる仕事だって、そりゃやらないで遊んでる方が楽に決まってるから、いざとなったら、やっぱブルーになるんですよね。だから金があるうちは「やらない」「先延ばし」という選択肢があるから、結局思い切りがつかずにズルズルやらない。でも金は減っていく。不安黒雲は台風上陸前のようにどんどん広がる。でも何もしていない。ますます黒雲。このウダウダ地獄(煉獄)がつらい。
だったら、いっそのこと全然金がない方が楽なんですよ。吹っ切れるからウダウダしない。
結局、どんな仕事もやってみないと本当のところはわからない。だからやる前に考えてることなんか全~部、無駄無駄無駄あ!なんですよね。その「無駄に苦しい」=「人生の無駄遣い」としか言いようがない生産性のない時期がすっとばせるのはデカいです。
かくして金欠でお悩みのあなたの頭上には、祝福の鐘が鳴り響いているわけですよ。から~ん。
ということで伊藤さんには、さっそく翌日からのバイト探し(日本である程度アテはあったらしいが)、と同時に、シェア探しの予習も含めて「とにかく動け、行け、歩け」で、一週間で50サバーブ以上、シティ直径10-15キロ圏内だったら「行ってないところはない」ってくらい動けって話をしてました。行った先でもバイト探しと。ま、結局すぐに面接、3日目くらいにはもう実働だったんで、そこまで行ってる時間もなかったんだけど、とりあえず最初の一週間で定期収入の道筋をゲット、取っ掛かりは出来て、お金不安はだいぶ解消されたと思います。
OK、これで前提準備は整ったので、さあ、本番いこかってシェア探しになりました。ここは本当に重要で、もーね、金金ばっか言ってる人に何を教えても身につかないもん。不安というウイルスで脳内CPUぐっちゃぐちゃだから。だから最初に駆除。3日あったら駆除できるし。
シェア探しは、たっぷり3-4週間くらいかけてましたねー。なんせバイト先行なんで、夕方までにはバイト先にいかないといけないし、3週目からは学校(パートで昼まで)だから、ますます行く時間が減るし。でも、それでいいです。
物事には速攻キメないと意味がないことと、ゆっくり時間をかけていいものがあります。今回の最初のバイトは、金の目処がつくことが目的、さらに削ぎ落として本質をいえば「不安というメンタルの解消」だけがポイントで、金さえ入れば(メンタルが好転すれば)、それでいいです。それが良い職場であるとかどうでもいい。良いに越したことはないけど固執する必要はない。時間をかければ良い職場もあるだろうけど、それはその次のステップでいい。
一方、この状況においては、シェアを早く決めてもそれだけメンタルが好転するってもんでもないし、むしろ逆の部分あると。とりあえず短兵急にバイトだけ決めた分、意図的にゆっくりモードにして、「さあて、どうやって生きていこうかな」って模索する時間が欲しい。簡単に決めれば決められるだろうけど、見れば見るほど、いろいろ違った風景が浮かんでくるし、視界も広がる。世界中の人に会える、話せる。
それにですね、何もかも決まって、毎日忙しげにやってると、ルーチンばっかになって「働いて食って終わり」みたいなサイクルになっちゃうでしょ。それじゃ日本にいるのと変わらんわね。忙しげにあれこれやるんだけど、毎日毎日、昨日とは違う風景を見る、新しいなにかを得る、そうやって広げていくクセをつけておかないと、同じところをクルクルと線香花火のように猛烈に廻ってそんで終わりになるので、それもよろしくない。
何もかも決めてスッキリして安心したいって思うんだけど、何もかも決めたらスッキリするか?というと、実はすぐに閉塞感が漂ってくるのですよ。「ずっとこのままなの?」「こんなことしに来たの?」とね。だから、わざと一部は決めないで、不安定のまま浮かせておいて、常に新しい風が入ってくる窓は作っておいたほうがいいです。長崎の出島みたいに。
仕切り直しの難しさ
さて、伊藤さんという方ですが、頭の回転も、感情も文章も豊かです。ちょっと前に体験談かいてくださった谷口さんに似てて、猛烈な分量のメッセンジャーのやりとりをしてます(今でも)。名前のとおり、満ちてくる潮というか、満ちすぎて溺れちゃうくらいに。
ずっと劇団で役者さんやって、劇団雑務もやって、同時にバイトも激しくやってって、これは僕の周囲にいたバンドやってバイトやってって連中、あるいは僕自身がそうであるようにバイトして司法試験とかいうのと同じ系統なんで、どんな感じかはわかります。
ただギリホリ年限になって、そろそろ仕切り直しかなって時期になって、ここが結構難しいと思います。彼女に限らず、誰であっても。それは学校、就職ってきて、20代後半くらいになって「一生これかよ~」的に遠い目をする人も同じ。仕切り直し。ま、乱暴に言ってしまえば、自発的に(転勤ではなく)オーストラリアにくる日本人は全部コレだといってもいいかもしれないです(笑)。
ただその仕切りが難しい。
これまでのライフパターンや、自分の頭・心・身体の使い方を意識的に変えていかないとならない。ついつい慣れ親しんだパターンになってしまいがちで、それは楽だし、慣れてるから効率もいいんだけど、でもそれじゃ仕切り直しになってない。
例えば日々忙しげに働いてしまうと、どうしても長期戦略というのが組めなくなる。その前提として頭の思考フィールドが狭くなってて、時系列的に30年先とか50年先まで見晴るかして、そこから延々逆算していって、「だから今日はこれをやる」という思考に慣れてない。
それに長期戦略って簡単に書いてますが、いざやるとなるとこれが鬼のように難しい。
一つは日本や世界の未来図という、政治経済に精通した知識が必要。世の中どんなメカニズムと原理で動いているかについての洞察も必要。想像力も必要。
一方で、どうしたいの?となると、限りなく「(人生)哲学」とか「死生観」になっていきます。「あなたにとっての幸福ってなに?」みたいな(笑)。もう雲を掴むような。
この2つは相互補完になってて、人生哲学がどーんと確立しまくってると、社会がわからなくても結構なんとかなる。昔ながらの「大丈夫(だじょうふ=一人前の立派な士)たる者、義のために死すべし!」とか「男子の生涯は一編の美しい詩であらねばならない!」とか、揺るぎなく確信できちゃう人だったらあんまり悩みは無いかも。まあ、死に場所探しくらいですかね。後は普通に子供とか出来ると、その子が価値の源泉になったりするから、迷いも減るし腹も括れる。
でもって、そんな簡単にわかるわけないから、「わからないなりに進む方法」「わからないからこそ貯金(なんらかの蓄積)はしておけ」とか、いろんな補助技法も必要です。難しいよ。リアルタイムには、そのへんの話をしてますねー。ライトプランとかいいながら、けっこうヘビーですよね(笑)
伊藤さんは頭の回転早いだけに、ともすれば「回転してるだけ」みたいになりがちな恨みもあって、そこが悩みの種なのかなー。これまで一生懸命生きてきはったんで、無理のないところでもあるのだが。もうちょい技の広がりが欲しいかなと。広い野原を思いっきり走れるポテンシャルはあるんだけど、これまでが座敷犬みたいなフィールドだったんで、どうしても持て余すというか、遠近感のアジャストがしにくいというか。
技でいえば、例えばですね、「考え方」もいろいろあって、数式をキューッと詰めて解いていくような考え方もあれば、絵を描いていくような考え方も又あります。うーん、この遠景の空には雲なんかちょっと浮かんでる方がいいかなーとか、なんか全体にもうちょい赤っぽいインパクトがほしいかなーとか、非常に感覚的に考えるってやり方。
ま、でも、そこをあれこれ考えていくのがワーホリのワーホリたる所以でもあり、醍醐味でもあると思います。悩むことが仕事みたいなもんで、あれこれシガラミやら雑事から解放されて、心ゆくまで悩んだらよろし、です。忙しすぎると悩むことすら出来ないので。
写真は前の田中くんと一緒のものが多いですが、、、
最終的に決めたKingsfordのおうちにて