2022年オーストラリアの連邦選挙の結果

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オーストラリアの連邦選挙の結果

3年に一度のオーストラリア連邦選挙、21日土曜日に投票があり、現在集計中ですが、大勢はほぼ判明し、現与党のコーリション(リベラル党とナショナル党の連立)が敗北し、代わって野党のレイバー(労働党)が政権をとりそうです。新首相は、アンソニー・アルバニーズ。Anthony Albanese

モリソンに代わって新首相になる人なので、多少知っておこうと調べてみました。
労働党の中では中核幹部で、前回の2019年の選挙でレイバーがまさかの負けを喫してリーダーのビルショーテンが降りた後、ずっと野党レイバーを引っ張ってきた人。シドニーの人なので、NSW州の副知事でもあり、ラッドやジラード政権でも中核にいたから、よく名前は聞いてました。

母子(&祖父母)家庭で育ち、母はパートの清掃婦で頑張ってた。キャンパーダウンの小学校を出るなど、身近な感じ。血筋的には、イタリアンとアイリッシュ。

選挙区はシドニーのGrayndlerってところで、全然わからんのだが(オーストラリアの選挙区の名前はよく知られている地名とは関係なく付けられているので、どこであれよくわからん)、インナーウェストですね。バルメインから、ライカード、ドラモイン、サマーヒル、カンタベリー、マリックビル、シィドナム、ニュータウン、キャンパーダウンとかそんなあたりで、僕のエリアです。

完全に集計が終わるまで数週間くらいかかるので、最終的にはどうなるかはわからないけど、今の時点で、レイバー72対コーリション52(ABC予想)、SMHは72:51、Sky Newsは71:55、Gurdianは73:51です。76議席が絶対多数で、二大政党以外の当選者が現在15前後。あと12議席前後でレイバーが安定多数を取るかどうかが焦点。

今回の選挙の結果解説は、いろんなメディアが書いてますけど、
https://www.abc.net.au/news/2022-05-22/election-how-labor-anthony-albanese-won/101087904
これが一番精密に書かれてると思います。読み進むと図が変わる高度なWEBワザを使ってるので、面白いです(ABCのこれはよく出来てる)。

ただ、結局のところ、あんまりよく分からない、そしてこれからどうなるの?というと、ますますよく分からないって感じですね。

大きな特徴として言えるのは、
★二大政党制そのものが地盤沈下してること
与党の歴史的大敗北(パース方面はほぼ全滅という惨状らしい)もさることながら、勝ったレイバーもお世辞にも大躍進という感じではない。プライマリーボート(※最後に解説します)得票率が32%というのは、第二次大戦以来、最低の数字らしい。つまり、国民の3分1くらいの支持しか得られずに政権についているのは前代未聞レベルであると。

★その代わり、どこが伸びたかというと、「その他」であり、環境政党グリーンズとか、まだやってたのかというポーリンハンソンのワンネーション、そして億万長者で州境封鎖をしているWA州と喧嘩をしていたクリーブパーマーのユナイテッド・オーストラリア、あとはインディペンデント(無所属)です。

ティール・ウェーブ現象
その中でも、今回メディアが騒いでるのが、ティール・ウェーブ現象です。Teal Wave
ティールというのは小型の鴨の種類らしいんだけど、その羽毛の一部に鮮やかな青緑色があることから、この色のことを指します。

が、それだけでは意味不明です。
2019年頃からビジネス書で「ティール組織」というのがちょろっと話題になりました。ぐぐってみたらたくさん出てきますけど、組織の強固度で、最も原始的で強力な集団(豪族やら、ギャングやら)がレッド、次に整備された軍隊や警察のようなアンバー(琥珀色だが、要は茶色)、ここまでは上命下服が徹底しているのだけど、だんだんグローバル企業のように固定階層にせずに実力に応じてどんどん配置していきレスポンスを早めるという機械のような組織。これがオレンジ。
さらに、多元組織で、グリーンが出てきます。実力主義なんだけど、意思決定の多くを最前線に委ねてしまい、CEOは全体の調整をするだけになっていく。
そのあとの現代から未来の組織モデルとしてティール(青緑)組織が言われ、進化型組織。各部分に意思決定を委ねるだけではなく、個々人に意思決定を委ねる。全体として機械というよりは生命体のようなイメージであると。

しかし、ま、この種のビジネス用語というのは、流行り廃りがあり、一種の流行語であり、流行ってるときは皆言うけど、誰もよくわかってないし、実は実践されてないという話もあります。てか僕はそう思ってます。ちょっと前の「トリクルダウン理論」とかもそうだしね。

ただ、これって要するにAPLaC界隈のオフやら活動やらと同じことです。組織なんだか個人なんだかよくわからないことだし、個々人の意思が絶対で、それだけを原動力にすると。感覚的にはそういう時代になっていくだろうなーとは思いますよ。だって、時代が進み、豊かになればなるほど、僕らのエゴは肥大しますからねー。ほんでも、これって子供時代のなんとなく近所の子供が集まって遊んでたのと同じことでしょ。組織なんだか、個人なんだかって。別に目新しくもない。ただ、企業内でこれをやるのは、せーのではできないでしょうね。上司や統括者の人間性によって決まるんじゃないですかね。でもそれって昔もそうだったしな。

それはともかく、このティールが今回の選挙とどう関係するか?というと、よくわかりません。
多分、感覚的に親近性を抱いているんだろうなってのは理解できます。つまり、二大政党制、いや従来の政治の組織然とした感覚に古さを感じ、また、そういうやり方でやっていく以上、より多くの集団を束ねられる人、ぶっちゃけより多くの票を持ってこれる人(労組の地盤があるとか)が政党で中心になり、権力を持つ。そうなると、結局、政治と言うのは、世間の利権集団の利害調整でしかなくなるわけですよね。

でも、国民各層の利害を調整するのが政治なんだから、それの何が悪い?ってことなんだろうけど、でも、不満はある。’out of touch”と英語でいうけど、政治家が、自分ら生活者の感覚から離れてしまってる。「お前ら、何やってんの?」ってな感じでどっちらけてる。

それに利権集団の調整というなら、集団になれない個々の個人の利益は永遠に反映されないことになる。そりゃ経団連とか、労組とか、農協とか、医師会とかまとまった地盤があるところの利益ばっか調整されて、普通のサラリーマンとか、子育てをしてるお母さんとか、ダブルジョブで子育てしているカップルとか、そのあたりは支持基盤になるような集団を作れない。たまにやってくる地元の政治家の集まりに参加して、不満をぶちまけるくらいしかないし、それが聞き入れられて国政に反映されているという気がしない。

くそおってな感じなんでしょうね、このティール現象は。
結果として、今回、3議席くらいかな、無所属で新人が当選してます。いずれも女性で、イメージカラーはこのティール(青緑)です(でもピンクのイメージカラーの候補もいるから、一概には言えないのだが)。

画像は、Google検索で、”what is teal in politics australia”でイメージ検索したもの。なんとなくビジュアルで雰囲気がわかると思います。

今回の選挙での投票動向をみてると、与野党ともこれまでの絶対的な支持基盤のところが、メルトダウンを起こしている。シドニー北部の富裕層の多いエリア、リベラル絶対の保守王国のようなところで、かなり高収入でプロフェッショナルな仕事をしてる女性などを中心にティール現象が起きて、リベラルが負けている。
逆にシドニー西側のレイバー安定エリアでも、意外とレイバーは弱い。

オーストラリアは多民族国家なので、出身民族やら、収入やらでかなりデモグラフィーが違う。ヒンドゥー系、ムスリム系はどう投票するかとか、中国やアジア系はどうかなど。それに、昔に移民してきて、庶民労働者としてオーストラリアを支えてきた階層と、近年高級プロフェッショナルとして永住権ゲットしてきた移民とではまた違う。

ここから先は論者によって、「だからこうなった」という因果関係の説明があって、なんだかよくわかりません(笑)。

目立ったところではティール現象で、これらの候補は、やっぱクライミット・チェンジ(気象変動)対策をちゃんとやれというのがメインの主張のようです。その意味では、レイバーもグリーンもそうなんだけど、もっとやれということなのか、あるいは気象変動はメディアがわかりやすく要約しているだけで、もっと複雑なニュアンスがあるような気もします。特に、モリソン政権は、女性に対するハラスメントが大きく政治課題になったときも、事なかれ主義で、ろくすっぽ対処してないので、そのあたりも反感を買ってる気がしますね。

ところで気象変動とかいっても、オーストラリアは過去に5回も化石賞をもらってるのですよ。その点でいえば「人類の敵ナンバーワン」なのよね。石炭輸出が大きな財源になってるわけだし、資源国である以上、それでメシ食ってるわけですわね。それにもともとの京都議定書は、各国が事情に応じてそれぞれに目標を設定しましょうという現実的なものだったのに、最近になると共産化、ファシズム化してきて、国の事情もおかまいないし一律これだけとか数値を決めようとかやってるから、そんなの無理でしょう。一番排出してるインドと中国がキレるのもわかるわ。ともあれ、資源国が炭素絶対悪でやって、収入源を殺すと、連鎖反応的にどんどん全体が貧困化する。そのあたりはプロの政治家はよくわかってると思う。

結果は出たけど、先は見えない
選挙は終わったのだが、じゃあこれからどうなるの?というと全く見えないですね。
なんせレイバーも、なにか公約をぶち上げてるわけでも、壮大なビジョンを出してるわけでもないわけで、いわば、「モリソンうざいし、もうええわ」という賞味期限切れ的な交換感覚、本当は3年前に変わってよかったのにダラダラ続いて皆うんざり的なところで、受け皿的に奪った政権です。棚からぼたもちみたいなものです。

なので、アルバニーズ首相が何をするのかといえば、公約がほとんどないのでフリーハンドではあるのだけど、実際にできることは限られているようにも思います。

大体ですね、ティールで言うなら、国家も地球にティールにしちゃえばいいのであって、国家単位で意思決定すること自体が時代遅れですらある。それぞれの価値観が両立しうるような巧妙なシステムを構築するべきなんだが、それを古い構造の政治ができるわけがないので、結局、何をやっても、どっかから強烈な反対意見がでて、あちらを立てればこちらが立たずになる。

とはいうものの、モリソンの、アメリカべったり、というかアメリカと抱き合い心中みたいな路線からは多少離れるかなーという気はします。やたら中国を敵視しして、今のウクライナ制裁自殺行為と同じような自殺行為をして、ビジネス界からも、地方の農村からもブーブー言われていたわけですので。中国敵視で、キリッとやったつもりが、全然受けてなかったということでもあります。

ちなみに、コロナ対策については、もう話題にもならない。今回の選挙でコロナ対策が一番大事なことであるとした有権者は、某アンケートによるとわずか1%だという。もう皆忘れたいって感じ。ただし、恨みつらみは残ってて、VIC州のアンドリューに対する恨み、やたら頑固に州鎖国をしつづけたWA州など、そのあたりの感情的なもやもやが今回のスィング(投票志向の変化で、オーストラリアの選挙では必ず語られる)を産んだとも言えます。

これからの先のことは、またおいおいわかってくるでしょう。

オーストラリアの超複雑な選挙制度
#プライマリーボート(Primary Vote)というのは、オーストラリアの選挙制度に由来して、こちらの選挙は、日本のように一人だけ名前を書けばいいのではなく、選挙区の全候補者に当選してほしい順番に1番から全部番号を振るらしい(国籍はまだ持ってないので、自分で投票したことはなく、見てきたわけではないが)。
この一番目になるのがプライマリーボート。ここで過半数をとれば、当選。しかし、プライマリーだけでは過半数を取れなかった場合にどうするかというと、一番プライマリーを取れなかったドベの候補者に投票した投票用紙をみて、そのドベの人のセカンド・2番目指名の候補者にそれぞれ割り振ります。それで過半数になればOK。そうでなければ、ビリから二番目の候補者のセカンドを割り振ります。ここで最初のドベの割り振りでブービーになった票もあるので、その場合は三番目の票が割り振られます。そして、、と延々続きます。

これは死票が少ないというメリットもあるのですが、同時に戦略にも使えます。つまり、レイバーだったら、最大のライバルはコーリションだから、コーリション候補を最下位にすればいい。相手もまた同じにする。その場合、候補者は支持者に対して、この順番に書いてねとお願いするわけです。そうなると、最大のライバルは最下位にすればいいけど、その他の無所属とか小さな政党をどう扱うかという問題が出てきます。

上院になるとさらに複雑で、これに比例代表制が乗っかり、しかも投票方法は二種類あって、どちらかを選ぶ。政党で選ぶか、人で選ぶかです。この場合も順位をつける。そして、過半数ではなく、有効投票数を改選議席数+1で割った数に、さらに1を足した数がボーダーになり、それを越えたら当選。

はっきりいって理解できてません。選挙の度に、分厚いパンフレット”How to Vote”が郵便ポストに入れられるのですが、関係ないもんねで読んでませんし、本当に皆わかってるかどうかも怪しいです。

こちらの投票は義務投票です。投票しないと罰金です。もっとも罰金といっても20ドル(初犯)、50ドル(二回目以降)らしく、大した額ではないのですが。

 

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