最近の経済記事3題

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最近、忙しさにかまけてあまり経済記事とか紹介してなかったのですが、ここ2-3日で読んだなかで、「あー、これは読んで損はないな」と思えたものがあるので、まとめていくつか紹介します。

最初は、冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』の「もはや先進国ではない。なぜ、日本経済はスカスカになったのか?」です。本家ではなく、引用で「まぐまぐニュース」で読めますが、小刻みにページを変えるのがウザいので(SEO対策~リンク数を増やす~と思われ)、孫引きのココのほうが一気に読めるのでおすすめ。

内容は、「日本経済は敗北したから貧しくなってるので、それをちゃんと認めよう」という耳が痛い話ですが、かなり当ってると僕は思います。

部分的に引用すると、

現在の日本には、昔のように「世界の市場で大きなシェアを持っているエレクトロニクス製品」とか「集中豪雨的輸出だとして怒られるぐらい世界で売れている自動車」などの製造業はほとんど残っていません。
では、何が残っているのかというと具体的には日本の主要産業は3つ、

(1)部品産業
(スマホでも日本は部品産業に転落。液晶、半導体、アンテナ周りの複雑でミクロの部品など、日本の製造業がなくては世界のスマホは成立しないが、どんなに技術力を誇っても、部品産業はしょせん部品産業。最終メーカーが価格も発注量も握っており、部品産業はベンダーとして受け身のビジネス、薄利かつリスクのあるビジネスになってしまう。
その昔、ソニーがウォークマンで世界の若者文化を席巻したように、パナソニックが「性能の良すぎる」テレビやビデオ機器で世界から怒られたりしながら、物凄い収益を上げていたように、最終製品を作るということはしていない。

(2)日本語による非効率な事務仕事
とにかく「原本」「ハンコ」「ファックス」「稟議書」「ファイリング」などといった昭和の化石のような日本語文書の管理ということが、今でも官庁でも、民間でも行われている。それで職を得ている人は猛烈な数になり、そのコストも膨大だが、どういうわけか日本の企業や政府はこれが止められない。

(3)観光がらみのサービス産業
すでにGDPへの貢献ということでは自動車産業を超えている。だが、問題は観光業というのは労働集約型であるし、低付加価値かつ固定費が高いビジネス。それが主要産業だというのは、その国の経済としては決して立派ではありません。

総じて言えば、産業構造として日本は先進国から滑り落ちそうになっている。
敗因としては、
・自動車の次として宇宙航空に本格進出できなかった
・コンピュータ時代に合わせてOSやアプリなどソフトの分野で負けた、どころかコンピュータ関連の人材をバカにして育成もしなかった
・バイオや製薬で世界のトップを走るだけの人材育成や投資をしなかった
・金融のグローバル化に全く対応しなかった
・英語での事務仕事ができず、香港やシンガポールにアジアのビジネスセンターの座を完全に奪われ、そのことを恥じてすらいない

では、日本企業の史上空前の利益というのは何なのか?といえば、その多くは海外の収益であり、連結決算では円安のおかげで膨張して見えるかもしれませんが、カネ自体は海外で再投資されています。
いやいや、日本企業は好業績で、配当もしているという反論もあるかもしれませんが、そもそも優良な多国籍企業の場合は、外国の株主が多いわけで、配当も海外でグルグル回るだけです。

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僕なりに要約すれば、国内的にいえば、世界を相手にリードできるような強力な産業がなくなってスカスカになっているってことでしょう。ただ、海外ではまだまだ売れるから、そこで利益を上げているけど、その経済効果や再投資も海外でやってるから日本に入ってこない。

じゃあどうすればいいの?となると妙案などあるはずがなく、痛みを伴いつつ、うんざりするほど長期的展望に立ってやり直さないとならないでしょうね。
世界に突出し、リードできるくらい圧倒的に強い(技術)力というのは、長い時間をかけた間接投資の結果でしょう。地味な基礎研究とか直にお金にはならないことを山程やって、またそれに従事する人も給料が良いとかではなく「好きだから」やってる人、むしろ私財を投じてもやるって層が分厚くいないとダメでしょう。その昔のメカ好き少年、ラジオ少年が育っていって日本の技術を作ったように。
でも、貧しくなると即金性(すぐ金になること)とか高収入ばかりが注目されるから、そういう悠長で牧歌的な話にならない。だからますます先細りするし、これもひとつの貧困スパイラル。

お役所をはじめとする非常に非効率的な文書システムやら組織構造がかなりガンになっているのだが、これを一気に是正すると、未曾有の大失業時代になるでしょう。それでもやる!って政権やトップが出たきたところで、それを国民が支持するとも思いにくい。自分が失業するんだもんね。

つまり今の日本は、敗北的な時代遅れのことを皆でせっせとやってるからこそ、仕事もあるし失業しないで済んでるだけの話。だけど、その割を食っているのは、現場の生産部門であり、少人数で猛烈に働かないと廻らないし、労働に対する給与比率も下がっているんじゃないか。だからこそなり手が少なく→空前の人手不足になる=でも賃金は上がらず→だから外国人奴隷を輸入しようという流れ。

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でもこれは、日本だけの傾向ではなく、むしろアメリカが一足先にそうなっているというのが次の記事で、
経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった
ですが、これも引用のココが全部一気に読めます

ここでは本論よりも、途中に引用されている図表3が非常に興味深い。

これは、アメリカの10年毎の雇用(給料)の分布図の変化です。
わかりにくい図なんだけど、よく見ていくと、
・昔に比べて低賃金の仕事に就く人がめちゃくちゃ増えている
・高収入の人が減っている
・そして中スキルの人が失業している
・失業に転落する人は、低スキルよりも中・高スキル者にむしろ多くなっている

つまり中上流の人(給与・職)がどんどん減っており、減った分だけ低スキル低賃金の方にシフトしている。国民全体で言えば、低所得化が進行している。
ごく一握りの人が高収入を得られるんだろうけど、その余地はどんどん狭まっているでしょう。これは2012年までしかないので、2019年現在ではさらに進行しているでしょう。

なんだかんだ言って、アメリカが経済的には一番強いでしょう。金融も強いし、FBやGoogleなのIT系次世代ビジネスも強い。でも、それだけ強くても、国民みんながハッピーになるという意味では、一貫して凋落している。

この論文は、なんでそうなるの?といえば、通信技術(ITとか)への投資をやったからであり、皮肉なことにビジネスはめちゃくちゃ効率的になるんだけど、効率的になるってことは、要するに人がいらないってことで、だから失業者が増えるし、低スキル低賃金にシフトすると。
じゃあ、IT化なんかやらないほうがマシじゃないかっていえば、確かにそうなんだけど、やらないと今度は国全体が化石化し、どんどん時代遅れになり、もっと悲惨なことになる。

この論文の結論は、
「IoT、AIなどデジタル分野では、人間のライフスタイルに与える影響が大きく、単に進んだ技術だけを開発してもだめで、自然科学と社会科学の両分野の専門家同士が、車の両輪のごとく協力しあいながら、開発を進めることがとても重要なのだ。
このことはAIの研究・開発だけでなく、応用がいかに人間の生活を変えるかを考えればわかりやすい。」

この部分は賛成ですね。IT化が進んで、技術が進歩したなら、それによって、どうやって皆がハッピーになっていくか?どういう仕組にしたらその恩恵を皆が等しく享受できるのか?って部分の研究や検討が少ないっては、まさにそうだと思います。
ただ、その社会科学(哲学も含む)でいえば、技術→経済競争に勝つ→お金の力で幸せになるという根本的なフォーマット、それ自体を変えていかないとダメちゃう?って思います。

逆に言えば、低スキル低所得がこれからのマジョリティになるのであっても、別にそれでハッピーになれたらそれでいいわけだし。そんなこんなもあって、僕も実験的に低スキル低所得のマックジョブをせっせとやってるわけですけど、案外悪くないぞよとは思いますよね。
ただ、保障とか足りない部分があるので、それは別途手当が必要。でも大企業正社員の厚遇やら国の福祉やらは今後期待できないのだから、別の方法でやるしかない、だから吉田債的な金融メソッドやら、セーフハウスやら、ネットワーク的な互助やら別のアプローチを模索してるってことです。

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3つめは、これらの補助証拠みたいな記事ですが、
ライザップ赤字転落と「高輪ゲートウェイ」という珍妙な名称に共通する「奪い合いのビジネス」

「JR東日本は2020年の暫定開業を目指して、品川−田町間に新駅の建設を進めている。都心としてはかつてない規模の再開発用地が出現。広大な土地を活用し4棟の高層ビルが建ち並ぶ大型開発を実施するというのが今回の計画の趣旨、その中核が山手線の新駅。
2018年6月に駅名について公募したところ6万4000件を超える応募があり、トップは「高輪」、2位が「芝浦」、3位が「芝浜」と極めて常識的な結果となった。ところがJR東日本は、新駅の名称を「高輪ゲートウェイ」にすると発表。多くの人があっけにとられた(ちなみに高輪ゲートウェイは130位)。」

なんでこんなケッタイな名前にしたのか?公募しつつも130位のものを採用したのか?が論旨で、結論からいえば、「構造的な経済の弱さによって、市場が拡大せず、常に顧客の奪い合いというゼロサムゲームになっており、過激な演出で人を集めないとビジネスが成立しなくなっている」からだと。

日本国内ではもう経済規模が広がらないから、それで儲けようと思ったら、他人のところから奪ってこないといけない。そうなると過激な競争になり、話題性とか、新規性とかそっち方面にシフトする。

だけどもっと根本的には、そもそも大規模ビジネスのネタが、手持ちの公有財産を放出して再開発するという古典的なもの(あるいはオリンピックとか)しかないというところが問題なんだろうなー。

 

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