成功への最適化は失敗への最適化でもあること(経済ブログ記事の紹介)

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成功への最適化は失敗への最適化でもあること~なぜ今のシステムがダメなのか

http://charleshughsmith.blogspot.com/2021/12/2022-year-of-breakdown.html

面白い論稿があったのでシェアします。
「成功(利潤極大化)のために最適化(オプティマイズ)された現行システムは、それゆえに失敗にも最適化されている」という逆説的な話ですけど、面白いです。

詳細は本文を読めばいいんだけど、英語なので、僕がぱーっと日本語に訳したものを最後に付記しておきます。

なにが面白いかというと、コロナなどで世界の物流が止まってます。もう中古車なんか16ヶ月連続で値段があがって、ただでさえクルマの高いオーストラリアではアホみたいな状況(10年落ちのカローラが200万円以上する)になってます。新車が入ってこないかららしい。元凶になってるカルフォルニア沖の大渋滞しているコンテナ船は一向に解消しません。なんでこんなに解決に時間がかかっているのか?

そこが非常に疑問で、陰謀論的にわざとやってるんじゃないかとも思ったりもするんですけど、でも、同時に、「今のシステムはもうそういうものになってしまっているんだ」=「ものすごく脆いものになっていて、一つ何かが上手くいかなくなるだけで、全面的に崩壊し、復旧の目処も立たなくなるのだ」という見解は、新しい視野をくれました。

そういえばみずほ銀行のシステムダウンも泥沼化してますし、もう永遠に復旧は無理のような感じですけど、なんでそこまで崩壊するのか?です。それは、教育にせよ、政治にせよ、医療にせよ、コロナなんかそのオーケストラみたいなものですが、なんでこんなに我々のシステムはダメなのか?です

それは「最適化してるから」だと。
例に上がっていたコンテナ船の事例がわかりやすかったんですけど、利潤の極大化のためにすべてを最適化してきました。もっとも効率よく動かすためのコンテナの大きさ、それを最大レベルに乗せるためのコンテナ船の設計、埠頭の荷揚げクレーンの形式、そのソフトウェア、トラックの動線や扱い、それを分刻みで動かしていくシステム、それらすべてが特注仕様になってて、それが世界共通規格になってる。だからこそ最大限安く荷物を運べることになり、それが現在のスーパーの棚の商品の価格になっている。最適化サマサマです。しかし、すべてをその一点(極大化)に合わせているために、なにか一つがコケたら全部ずっこけるようになっている。あまりにも特殊規格にしすぎたために、その専従のスタッフがいなくなったら(コロナ、隔離、ワクチン未摂取、うんざり転職など)、もう後釜がいない。一般的なスタッフでは、あまりにも特殊すぎるこれらのシステムは動かせない。だから誰もいないまま全然話が進まない。

これに関連するのが「バッファ(予備能力)」の概念です。3交代シフト制でやるにせよ、3人いれば良いというものではない。それではバッファゼロであり、3人全員病気で倒れても良いように、3人予備に雇っておけばいい。これでバッファ100%。しかし、コストカッティングでそういうことをしなくなった。非正規、ギグ、オンディマンドなど安い人件費で済ませようとするのが極大化と最適化。だからバッファが薄い。

その昔であれば、そこまで絞り込んで特殊化(最適化)してないから、一般的な機材と一般的な能力で廻していたから、効率は確かに悪いかもしれないけど、なんかあったときに代替がきく。「じゃあこっちを使ってみよう」とか現場の知恵でありあわせでなんとかしていた。この優れた現場処理によって物事は動いてた。

しかし、今はそういうことは出来ない。そういう経験豊富な人員は給料が高額だといってクビになってる。片や頭でっかち度が加速しているマネジメントでは、MBAや経理など現場経験ゼロの連中が机上の空論を作る。それに、現場センスのない官僚や一般市民が、建前だけであれしろこれしろでコンプラインスなどどんどん規制は複雑になり非現実的になる。現場とマネジメントの乖離です。

結果として世界で何が起きてるかといえば、地下鉄一本作るだけで何十年もかかり、予算は見込みの何倍にも膨れ上がる。役所の手続きは無限に複雑になり、ITで簡易にストリームライン方式とかいっても、まとも作動した試しはない。公的セキュリティの脆弱性はお話にならないレベルだし、もうダメダメ。しかも本筋に関係ない組織内部の抗争は常にあり、抗争と政治的理由で物事が決まる。

こういったマネジメントが、最適化、極大化を進め、経験豊富なスタッフ、融通無礙な現場処理をやるための余裕を全部潰していってるので、ひとつコケたら、もうどうしようもなくコケたままになる。それが現在。

という話です。なるほどねえって思います。
この著者は、世界でも有名なメジャーCNBCのオルタナ経済ブログ(別の視点で鋭く切り込む経済ブログ)の一つに紹介されています。
https://www.cnbc.com/2012/01/27/The-Best-Alternative-Financial-Blogs.html

-----以下本文と訳文

2022: The Year of Breakdown
2022年は崩壊の年

Friday, December 31, 2021
charles hugh smith氏の経済ブログより。

In other words, our economy and society have been optimized for failure.

換言すれば,我々の経済と社会は、失敗するように最適化されているとも言える。

If we look at the fragility and instability of essential systems, it’s clear that 2022 will be the year of breakdown. Let’s start by reviewing how systems break down, a process I’ve simplified into the graphic below.

我々の社会の中核にあるシステムの脆弱性や不安定性をみれば、2022年は「崩壊の年」になるのは明瞭である、いかにしてシステムがブレイクダウンするのか、そのプロセスを単純化させたグラフが下記のものである。

1. Regardless of whether it was planned or not, all systems are optimized to process specific inputs to generate specific outputs. Each system is pared down to maximize efficiency as the means to maximize profits. This efficiency in service of maximizing profits requires trade-offs that only become visible when some key part of the system fails.

それが企図されたものであるかどうかは問わず、すべてのシステムは特定のインプットにおける特定の成果をだすために最適化される。各システムは、最大の効率性、ひいては利潤の極大化を目指して洗練されている。利潤極大化のための効率性は、いくつかのキーポイントの部分がうまく動かなくなった場合にだけ可視化されるという欠点を不可避的にはらむ。

The system that ships containers around the world offers a useful example. Shipping containers revolutionized shipping and reduced costs by commoditizing containers (all standard sizes), container ships (specifically designed to carry thousands of containers and container ports with specifically designed cranes, docks and truck lanes / queueing.

世界中に行き渡っているコンテナ船はよき例証になるだろう。輸送用コンテナは海運システムを革命的に変え、コンテナのサイズをすべて共通のものに統一することでコストを削減している。コンテナ船は、何千というコンテナを一時に運ぶために特殊に設計され、港湾においてはその特殊規格のコンテナを動かすための特殊なクレーンが、ドックが、トラックの動線や車列が設計されている。

It’s possible to load a container on some other craft with a jury-rigged crane, but the efficiency of that is essentially a fraction of the optimized system: the jury-rigged crane will only be able to load a handful of containers, the ship will only be able to carry a few containers, and the likelihood of the containers shifting increases.

これら特集規格のコンテナを、港でその場しのぎの急造クレーンで扱うことは不可能ではないが、最適化されたシステムの枢要部分においてその効率性は激しく悪化する。間に合せのクレーンではほんの一部のコンテナしか運べず、したがってコンテナ船も少数のコンテナしか運べず、コンテナのシフトも増加する。

The infrastructure and labor are both highly specialized. Calling out the National Guard to speed up container offloading is a useless gesture unless the Guard can deliver more cranes and experienced operators.

インフラも労働者も高度に特殊化されている。国防省にコンテナ積み下ろしを早くするように呼びかけるのは全く無意味なジェスチャーに過ぎない。なぜなら、彼らが、より多くのクレーンと熟練したオペレーターを増やせるわけではないからである。

The greater the optimization, the greater the fragility as the breaking of any one link brings the entire system to a halt. Throwing in equipment and labor that the system isn’t designed to use will fail.

最適化を進めればすすめるほど、どこか一つでも齟齬があったら全体のシステムが止まってしまうという脆弱性は増加する。いくら機材や人員を投入しようが、そのために特殊に規格されたものでなければ役に立たないからである。

Virtually every essential system has been stripped of redundancy, resilience, reserves and adaptability as the means to fully optimize inputs, processes and outputs. The system works well if every link in the dependency chain is working perfectly. Should one link go down, the entire system goes down.

事実上、すべての枢要システムにおいては、最適化すべきインプットとして、余剰人員、耐久性、控えの部分、適用可能性は徹底して削減されているのである。このように最適化されたシステムは、すべてのパートが完璧に動いている限りにおいては素晴らしく効率的に廻るのであるが、なにか一つでもダウンしたら、すべてのシステムが止まってしまうのである。

2. Cost-cutting has stripped systems of back-up staffing and expertise. Full-time workers have been replaced by gig workjers, contract workers, part-time staff on call, etc. Experienced staff cost too much so they’ve been let go as well, so there is no depth in numbers or knowledge.

コストカッティングによって、システムのバックアップや専門要員が削減されている。
フルタイムの正社員は、時給・件数あたりのギグワーカー、契約社員、必要の際に呼び出されるパートタイマーなどに置き換えられている。経験をつんだ熟練労働者は、あまりにも人件費コストが高いがゆえに追い出され、現場のスタッフは、人員にせよ、その職務知識にせよ、非常に浅くなってしまっている。

3. Management is top-heavy with MBAs and bean-counters with little pragmatic experience or knowledge of the systems they’re managing. Management is optimized to advance those who can generate big profits, not those with experiential skills needed to meet crises in real-world dependency chains, production, breakdowns, etc. So when the system comes apart, managers simply don’t have the knowledge or skills to solve real-world problems.

マネジメント部局は、MBA取得者やbean counter(豆勘定者=やたら数字が細かいだけの経理専門者)によって頭でっかち構造になっている。彼らは実践的な経験はほとんどないし、彼ら自身がマネージしているシステムそのものの知識すらろくに持ってない。マネジメントは巨大な利潤をあげる人のみを優先するように最適化されており、現実の社会での依存関係、生産、故障その他の危機的な状況に対応できるだけの実践経験を積んだかどうか人選において考慮されないのである。かくして、現実にシステムが障害に遭った場合、マネージャーは、現実世界でそれを解決するための知識やスキルをもっていないということになる。

The skills that are most desirable when everything is running smoothly are useless in crisis. Who do you want to go into combat with, the continuously promoted officer who won high marks for filing reports on time or the officer with actual combat experience who got passed over for promotion because he/she didn’t devote the proper attention to paperwork, meetings, virtue-signaling and derriere-kissing?

すべてが上手く行っているときに求められるスキルというものは、一旦危機に陥ったときには全く何の役にも立たない。あなたが戦場で一緒に戦ってほしいと思う人間のタイプはどちらか?片や、期限どおりにきちんとレポートを仕上げることで次から次へと出世街道を進んできた人か、それとも実戦経験は豊富なのだが、ペーパーワークに過度に没入せず、上司との会合、大げさな追従、おべっか使いをよしとしなかったために出世できなかった人と、どちらとともに貴方は戦場に行きたいか?

Unfortunately the vast majority of our systems are managed by people who lack the long experience
and hands-on skills needed to meet cascading crises.

不運なことに、我々のシステムの圧倒的大部分は、長い経験を欠いている人、次から次へと生じる危機を上手にさばいていくための機転とスキルに欠けている人、要するに危機対応が出来ない人々によって運営されているのだ。

4. Systems are now so complex and opaque that they are in effect optimized to fail in ways that are impervious to quick fixes. Bureaucratic mission drift, virtue-signaling, the erosion of accountability, multiplying platforms and software and the endless expansion of compliance and regulatory burdens have loaded every system with numerous points of failure and procedural friction that contributes little or nothing to the organization’s core mission. As resources are devoted to make-work procedural black holes, the mission decays and collapses at the first crisis.

現在のシステムはあまりにも複雑になり、中がどうなってるのか見えなくなっており、結果として、即座に解決しうるものを出来なくしているという形で、必然的に失敗するように最適化されているのだ。
官僚的な建前的な使命の美しい作文、virtue-signaling(人々を感動させんがための、あざといまでの価値観の大袈裟な強調)、説明責任の空洞化、何重にも層をなしているプラットホームとソフトウェア、無限に拡大するコンプライアンスと、当局によって押し付けられた規制の数々、、、これらの物事が各システムにおいて大きな負荷となり、数多くの機能不全、組織の中核使命とはなんの関係もない手続運用において生じる内部的な確執。こういった組織のリソースが生産性におけるブラックホールに向けられて収斂されているようなところでは、中核価値は一番最初の危機において腐敗し、崩壊する。

Stop me if you’ve heard this before: contacting essential services (tax payments, etc.) rarely generates a timely reply, much less a solution; a new bridge or subway line takes decades to build and is billions over budget; software projects intended to streamline complex regulatory processes (building permits, etc.) never work right and end up slowing the whole system down, fraud is rampant, software security is laughably poor….the list is almost endless.

以前聞いたことがあるなら、私をとめてください。
納税など重要なサービス部門にコンタクトをとると、タイムリーに返事がくるのはまれであるし、来ても全然解決になっていなかったりする。新しい橋や地下鉄を作ろうとすれば、十年単位の話になり、途方も無い巨額な費用がかかる。複雑な行政手続をスームズにするために設計されたストリームラインのソフトウェアは、およそ正しく作動した試しがないし、徐々に減速し、しまいにはシステムダウンする。詐欺や誤魔化しが横行し、公的ソフトのセキュリティはお笑いレベルに劣悪だ。これらのリストはエンドレスに続く。

5. Once the system has been stripped of resources, experienced staff, back-up equipment and supplies and loaded with unproductive friction, even a small crisis will bring down the entire system. In the graphic below, all of these resources are the buffer that enables systems to respond to the pressing demands of crises. Once these are gone, the only possible result is systemic collapse.

一旦システムが、各資源、経験のあるスタッフ、バックアップ装置や供給それらを削ぎ落としてしまい、非生産的な確執を負ってしまったら、どんな些細なつまづきでも、システムの全体がダウンしてしまうことになる。
下のグラフを参照してほしいが、多くの資源はバッファ(緩衝、予備)にあてられ、このバッファが危機におけるニーズに答え、危機を乗り越える。バッファを取り払ってしまえば、実現可能な唯一の結果は、崩壊だけである。

6. We’ve collectively lost the ability and willingness to deal with crises for which there is no happy-story ending. We only want to hear the optimistic story, the glimmers of hope, the miracle cures, the painless tech fix, etc., and if we get a dose of reality instead, we’re quick to dismiss the bearer of inconvenient news as an alarmist, a doom-and-gloomer, etc.

我々は、危機に対応する能力と意志をすっぽりと全体的に失ってしまったので、もはやハッピーエンドはありえないことになった。我々はただ楽観的なお話、一筋の希望、奇跡の回復、苦痛のない高度技術による修繕などなどを聞きたがるようになっている。そして我々が本当の(救いのない)現実に触れたとき、そういった不都合なニュースをもたらしたものを過剰な悲観論者、破滅主義者だといって即座に否定しようとするのだ。

In other words, our economy and society have been optimized for failure. Drifting along in a daze of disconnected-from-reality complacency we are completely unprepared to deal with realities that don’t respond to magical thinking, optimism, hope and tech fantasies.

かくして、言葉を変えて言うならば、我々の経済社会システムは、失敗にむけてきっちりと最適化されているといえる。厳しい現実から目を背けて、ディスコネクト(回路切断)することによって描かれた自信過剰な空間を漂うことで、本当に現実への対処能力を完全に失ってしまっている。「本当の現実」とは、魔法のような発想、中途半端な楽観論や希望、テクノロジーへの過度のファンタジーなどによっては対処できない事態のことだ。

※図の解説

左側は平常時であり、右にいくほどに危機的になる
平常時にはバッファ(予備能力)は100%あるが、なにか事が起きた場合、バッファを消費して現状を補完する。結果として、見た目には10%のシステム損傷にみえるが、実際にはバッファは50%に減ってしまっている。しかし、バッファが減ったことを外部からみることはできない。
さらに残った50%のバッファを投入することで、見た目には100%近い回復になるが、その時点では既にバッファは1%という薄い状態になっている。
我々はこの地点にいる。バッファをほぼ使い果たして、見た目の回復だけは繕っている状態だ。
この先何かがあると、もはやバッファは機能しないから、システムすべてが崩壊して奈落の底に落ち込んでいく。

 

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