シンガポール就職説明会の感想

Pocket

シンガポール就職説明会

かねてからの広報のとおり、さる02月16日にAPLaC事務所で行いました。
部活のミーティングのような感じで、みっちりと。

僕は、事前にさくっと概要を伺っていたのですが、今回は一から体系的に説明していただいのでまた理解が進みました。

シンガポールの「気合」
加藤さんのお話(プレゼン)はさすがに堂に入っていて、そもそもシンガポールとは何か?という世界史(植民地時代)から話が始まります。

建国の父であるリー・クアンユーの画期的な国家戦略で今日の地歩を築いたあたりは一般常識として大雑把には知ってましたけど、改めて説明されるとやっぱり凄まじいです。植民地解放~独立後、マレー半島の先っぽの小島、なーんもない段階で、まず言葉がバラバラだから統一公用語を作ろうというころから始まる(てかその前の20年間の権力闘争と独立闘争があったわけだが)。人口の7割が中華系だから当然中国語になりそうなものだけど、それではただのアジアのど田舎で終わってしまうということで、敢えて英語を公用語としたところが凄いです(中国語、マレー語、タミル語も公用語)。

日本の明治維新もかなりドラスティックな、ほとんど過去文化の全破壊くらいの強烈さでやってて(廃仏毀釈で仏像叩き壊して風呂の焚付にしてたり)、その際、日本も英語を公用語にしようという意見もあったのは有名な話。初代文部大臣の森有礼とか、終戦後には尾崎行雄とか。日本ではマイナー意見でボツにされたことをシンガポールはやっている。でも、だからといって中国語が喋れなくなったわけではなく全員バイリンガルになった。

ま、国語論は議論のあるところですが、建国の時点でそのくらいの「根性」「気合」があったってことであり、それは現在のシンガポールを理解するための一つのキーポイントになるでしょう。つまりは、戦略性と合理性。曖昧な情緒性や、文化や慣習の名を借りて既得権を守ったり、危機対応を怠ったりということがわりと少ない。商業で食っていくと決めた以上、世界で一番ビジネスがやりやすい環境を作ると。

そういったバックボーンから、世界中の企業がシンガポールに進出してるわけですね。日本企業もそうで、シドニーの日系企業は約300社だけど、シンガポールはその十倍弱の3000社が進出している(ちなみにタイは7000とか)。重要度もシンガポールの方がずっと上で、派遣されるのも本社部長クラス(オーストラリアは課長クラス)。だからビジネス活動が活発で、求人需要も多いと。

 

シンガポール就労の風景
切れば血が出る現場情報で、なぜシンガポール現地で日本人が採用されるのか?本社から派遣すればいいじゃないかってことなんだけど、そんなに人手がないので現地調達になる。

では、その場合に求められる素養は何か?求人広告の時点では性差を表示しないが(したら違法)、結果的に女性が8割、男性2割で、男性の場合はほぼ営業職であるという。なぜそうなるのか?とか。

またシンガポール政府の巧妙な移民締め付けとして、世界中の大学をランク付けして、ランクの低い大学卒に就労ビザを出すためには、より高い初任給を払わねばならないとする方策(結果的に足切り効果になる)とか。しかし、それは日本国内のいわゆる偏差値とは似て非なるランキングであるとか(シンガポール政府が考えることだし)。

FBでの広報のときも長々書きましたが、シンガポールは本当に日本とオーストラリアの中間で、オーストラリアで就職するか日本に戻るかの中間にある。いわばUターンではなく、Jターンってやつです。半分日本で、半分海外という。

シンガポールでの日本人求人
このあたりのミックス具合が面白くて、海外で採用される場合、英語なんか出来て当たり前だから、日本人であることが武器になる。

日系企業の場合は、日本ビジネスのノウハウを知ってることがポイントになる。正社員2年くらいやってないと書類で落とされる現実はココで、いわば「日本会社道」の「有段者」でないとダメだと。どんな人とも上手につきあい、組織全体の俯瞰視点も持ち、臨機応変に対応する技術は、ビジネスの現場に出て上司先輩から教わらないと得られないという現実がある。

その意味で非正規は損なのですね。また正社員でもITに特化しすぎてたり、国際戦略部なんかで通訳語学仕事ばっかやってる人はダメになる傾向があるのもわかります。ビジネスのゼネラルスキルがないから。実際には非正規でもこのスキルを叩き込まれている人はいるだろうし、逆に正規でも全然ダメな人はいるだろう。

そこは実質的に判断すればいいんだろうけど、手間暇かかるし、別に企業はそこまでする義理はない。効率の問題。運転免許持ってても運転ヘタな人がいる反面、免許なくても鬼のように運転が巧い人もいる(その昔のバリバリの暴走族連中は免停、取消を食らって無免許)。じゃあ採用の際にいちいち運転実技試験をやるかというと、そんなの面倒臭いからやらない。同じように、賞を取ったとか、どこと取引したとか、そういった形式的な証拠がモノをいうのは、証明効率の問題だと思います。

形式と実体は常にズレてます。資格があるから有能、ないから無能と決まったものではないけど「実質」を判断するくらい難しいものはない。数ヶ月一緒にやってみて、「ああ、こいつは筋がいいな」とわかるんだけど、そんなの事前にわからない。だったらあとは確率論による形式審査にするしかない。たしかに真実に反する部分もあるんだけど、真実を追求するのはコストがかかるのよね。「やってらんない」って。多分そういうことでしょう。

一方、非日系企業の日本人募集は、日本について精通していることがポイントになる。日本企業カルチャーの精通度もあるけど、ちゃんとした(敬語も)日本語が喋れることが大事だったりする。カスタマーサポートや営業の場合は、日本語能力メインで採用されるようなものだし。

だから、皮肉な逆転現象が起きる。
非日系企業に入ったら、そこは「日本セクション」で周囲は日本人ばっかりになってしまう。逆に、日系企業に入ったら、日本人は支社長ひとりだけ(あと数名いるかどうか)で、あとは全部非日本人。

面白いなーと思ったのは、すごーいグローバルな環境で、すごーい日本的なビジネスをするわけで、そのミックスが興味深い

しかし、考えてみたら、これ僕もそうだわ。APLaCだって、メインのクライアントは日本人だし、日本人同士の常識や誠意というものをベースにするから成り立ってるわけだし。また僕も、しっかりした日本人スタッフのいない語学学校はえらい苦労することが多いです。事務がいまいちだから、話が通ってなかったり、頼んでもいないホームステイを斡旋されてチャージされたり、もうドキドキハラハラです。だから日本人同士の方がビジネスはやりやすいし、あなたも多分そうだと思う。「明日までに」って言われてそれを額面通り信じていいというのが、世界においてどれだけ貴重で、どれだけ楽か。こっちでそんなの信じたらあかんよ。そうなる場合もあるけど、ならない場合も普通にあるから、当然プランBもCも用意しなきゃね。大変。

というわけで、シンガポールの日本企業が、「日本ビジネス道・初段以上」を求めるのは、海外に長いこといると、身につまされてわかります。日本にいると当たり前過ぎちゃってわからないかもしれないけど。

 

もっと面白い加藤さん
それと同時に、加藤さん御本人のキャリアが面白くて、質疑の後半、さらには雑談タイムになったらそっちにいってました。最初はオーストラリアで駐在し、バリバリやってて、それで永住権取れて、シンガポールにも仕事でいって、あんまりいるとオーストラリアの永住権がなくなっちゃうからまた帰ってきて、シドニーで語学学校やったり、そのうち昔の友人の頼みでジャカルタいって海底ケーブルの会社を一人で立ち上げてマネージしたりと。

当日のご本人の物腰は、ほんと物柔らかで朴訥で、なんか説明会というよりも、田舎の小学校分校の国語の先生に教わってるような感じでした。話に嫌味やトゲが全然なくて(修練の賜物だとも思ったけど)、包み込まれるような感じで楽しく聴けました。往年の頃は、さぞや鬼のようなビジネスマンだったんじゃないかって思われるのですが、いまは春風駘蕩。

とはいいながら、アジアの国のギラギラした雰囲気、ちょっと油断したらすぐ盗まれたり、騙されたりするのが、「いい」ですねーとニコニコして言うのだら、そんな春風だけではないのでしょう。

加藤さん、友章というお名前からTOMさんと呼ばれ(名乗っ)ているようで、キャリアプラン オーストラリアという会社のURLはこちらです。
シティのトラトラさんでもよく説明会をやっておられるようです。個別に興味のある方、「受け売り」で良ければ僕にご連絡ください。また個人的にお繋ぎすることも出来ます。将来的に複数の希望者があれば、再度説明会を企画することも考えています。

でもって、シンガポールでの就労2年なりをした経験をが、あなたの大きな人生でどのように活用するか、それはまた別の問題です。もともとは、オーストラリアでホワイトカラーで就労ビザをゲットするのが難しいなら、まずシンガポールで2年やって、第三国でも働いていたというキャリアをひっさげてまたオーストラリアに挑戦するというのはどうだ?という発想からシンガポールになったものです。でもシンガポールに行ったら行ったで、さらに第四国に行くかもしれませんし、その経験を活かして日本の郷里でなんかやるという手もあるでしょう。

シンガポールは、野球で例えれば「二塁」って感じですか。オーストラリアに来て英語そこそこできるようになって一塁進出、次に送りバントやヒットエンドランで2塁に進むのがシンガポールかなって気がします。そして、2塁までいけば、ヒット一本でホームまでいけるかしらんし。

勝手な妄想イメージ
最後に、お話伺って、僕がまだ30前後だったらどうするかなーって想像(妄想)しました。男性の場合は殆どが営業職(要するにゼネラルな即戦力でしょう)。また殆どの場合日本人は上司だけって感じになるだろうから、側近になって走り回されるのかな?と。

で、僕的にはそのイメージは、いいじゃん!です。弁護士時代もそうでしたから。あそこはもっともっと徒弟制度で、カバン持ちのようにちょこちょこ付いていくんだけど、それこそが学びの宝庫で。修羅場の仕切り方とかボス弁見てて「なるほど、ああやるのか」と覚えるし、道中のあれこれの雑談やアドバイスもめちゃ貴重でした。出張とか多いし、けっこう笑える珍道中になったりもするし。また、「行って来い」「調べてこい」「見つけてこい」のパシリ出張も、こんなことでもないと行けない日本全国津々浦々に行けましたし、それがあとで大きな資産になりました。

僕は、日本の大学の授業料なんか年間24万円くらいが適正相場だと勝手に値付けてますが(月会費2万円のフィットネスクラブくらい)、あの徒弟修行時代を年間学費として値付けするなら数百万の価値はあったと思います。それが払うどころか、給料もらえながら学べるんだから。まあ、リアルには、過労で帯状疱疹になったりして死んでたけど、でも黒字だわーとは思ってました。

で、このシンガポールも、妄想逞しくすれば、インドネシアのどっかの工場に部品届けるんだとかいって現地でクルマ走らせてたら田圃のど真ん中でエンコしちゃって、「おーい!」とかやってるんじゃないかなー。楽しそうだな(その時点では死にそうだが)。でね、そこでたくさんのアジアの風景を見てくるわけで、名も知らないような小さな村の食堂でナシゴレン食べて、それがまた超美味だったりして、多分そういうのが一番の財産になりそうです。

それに期間限定で、一生これってわけじゃないし。
上司とマンツーマンが気詰まりかしらんが、結婚したらそんなもんじゃないぞー(笑)。でも結婚はまだ離婚というエスケープがあるけど、子供できたらそれも出来ないぞ。それに比べたら屁みたいなものでしょ。などと、勝手に思ったりするのでした。ああ、インドネシアの田圃は行きたいかも。

 

Pocket