志保さんWH終了-帰国直前の心境

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先日、志保さんが帰国直前のご挨拶に来られました。
志保さんの場合、これまでの軌跡はわりと克明に記されていて、渡豪前のオフなんかもそうですが、オーストラリアに来た後も、
ちょうど1年前、着いた当時の一括パックの様子(その1その2
ラウンド通信その1
ラウンド通信その2
などがそうです。

今回は行った先でどうしたこうしたという話とは違って、もっと一般的な話。これまでの軌跡とか、なんでWH?とか、来た甲斐はあったか?これからどうするの?という話をみっちりしました。時事から趣味まで広がる、まあ、みっちりした雑談ですね。

志保さんの経歴が面白いんですよね。大学では国文学で、専攻は「平家物語」。「源氏物語」ではなく平家です。これで院までやってるそうです。源氏はちゃんとテキストが残ってるけど、平家は辻々で琵琶法師が~ってやつだから、テキストとして残ってるわけではない。僕も源氏はまあ知ってるけど、平家になると「敦盛」とか「壇ノ浦」とかのクライマックスのさわりくらいしかしらない。民間伝承の民間芸術みたいなもので、ある意味では都市伝説ぽくもあるのですよね。それをどうやって研究?というと、その伝わり方とか、ヴァージョンの微妙な差異とか、そういう研究だそうです。ああ、なるほど、柳田國男的な感じ?ここで「伝わり方」論から、日本の昔話が地方によって全然違うヴァージョンになったりとか、それはなぜか?論とか、有名な漫画の宗像教授シリーズ(伝奇考異考録とか世界編とかあるのですが)の話になったり。

で、そういう専攻をしていた人が、就職になると子ども関係にいくのですね。最初は小学校の教員を、次に民間だけど半官半民のような組織でフィールドワーク。もともとはユニークで面白くて尊敬できる人が自分でそういう組織を立ち上げて活動してたのを知り、会いに行ってお手伝いをってことだったのですが、時機が合わずとりあえず経験を積む意味でも教員を、ということで軽井沢で教員を。ただ、時機が整ったら今度は有名になりすぎて人が殺到して入れなくなったので、ほかを探しているうちに、民間企業なんだけど、エリアによっては公的支援がほとんどであるという事業、サポートが必要な子供の環境や関係者に対して、きめ細かくフレキシブルな支援をするという。

これはなかなか面白かったそうです。でも、それも4年でやめてしまったのは、繰り返しパターンになったということ。また、何が面白いかというと、一緒に働いてる人たちが面白い人が多くてそれが良かった。だけど、経験を積んでくると、現場から離れて管理部門にあがっていかなきゃいけない。しかし現場のほうが面白いので残ってると、面白い同僚たちはどんどん現場から離れ、もっぱら新人さんたちの指導をするようになる。ここでパターン化してしまって、うーん、と。

それでもいいんだけど、しかし、なんかもっと無いのかなと。
そこからオーストラリアのワーホリってことになるんだけど、そこ、飛躍してない?なんで?ってしつこく聴いてみました。

でも本人、あんまり覚えてないんですよね。中野のオフで、錦織さんとかマリさんとかと話をしたのが決め手になったそうですけど、その話のどこがどう良かったのかとなると、それもよく覚えてない。そもそもなんでオフを知ったの?どうしてAPLaCにたどり着いたの?というと、それも、さあ?って感じで(笑)。
もともと親御さんに連れて行ってもらったりして海外は慣れていたので、そんなに海外凄いとかいう願望はなかった、むしろ海外っていっても別にそんなに変わらないんじゃない?的な醒めた感想すらあったそうです。

ただ全然興味なかったらAPLaCなんかたどり着かないし、たどり着いても読まないでしょう。覚えているのは、オフが3日後にあるらしい、チャンスだ!ということだけだそうです。

ただ思うのは、海外で英語を勉強して、福祉関係の国際的な舞台で、、とかは全然思ってなかったんでしょうね。彼女の場合、一つ一つの局面では真剣に掘り下げて、それなりの業績を残しているのでいかにも計画的に物事を進めているように見えます。いやミクロ的にはそうなのでしょう。ただ、局面から局面、大きな戦場から別の戦場に渡り歩く過程がポーンと飛躍してるのですよ。平家物語→子供関係→オーストラリアWHって、なんなの?という。

まあ僕だって、高校時代に柔道やってロック聴いて、バンドやって、司法試験やって弁護士になって、オーストラリアに移住ですから、一気にポーンと飛ぶ飛距離やら、脈絡のなさでは負けてないとは思いますが(勝ってどうするという気もするが)、だからこそ、そのポーンに興味を惹かれますね。

本人とも話してたのですが、キーポイントになるのは「面白い人」らしいです。平家から子供に移動するのも、面白い人がなんか立ち上げているからというのがキッカケだし、錦織さんやマリさんという面白い人がいいよというならやってみよーというくらいの感じらしいです。それはなんかわかります。日頃からセンスがよくて面白い先輩から、「これいいよ」と教えてもらった映画や小説だったら、とりあえず見てみようと思いますもんね。物象と物象の間を連結するのは「人」であると。

志保さんの話だと、ラウンドの最後の方になってから、「回帰してきたなー」という感覚を抱いたそうです。そこらへん詳しく聞くと、、、

本人の原動力は、僕も同類型だと思うから分かる気がするのですが、「面白いかどうか」なのでしょう。ピピッとくるかどうか、うわ、すげ、おもしれーって思うかどうかです。面白かったらハマるし、凝るし、掘り下げるし、一生懸命やる。

ただ、本人の中では、そういうの繰り返していていいのかな?この先、こんなことばっかでいいのか?という悩みはあったそうです。WHに来る前にもあったと。

次々に面白そうなものを食べていく、渡り歩いていく、それはそれで生涯旅行者みたいなもので、アリだとは思う。だけど、言葉悪くいえば、食い散らかしてるだけの「焼畑農業」みたいなものじゃないかと。

僕がまだ日本にいる頃に、センセーション・シーカーって言葉があって、刺激を求め続ける人のことです。サメみたいなもので、止まっていたらダメ、動いてないと死んでしまう人。僕自身他人からそう言われたし、そうでなければ、誰が弁護士やめてなんの展望もない海外に行こうと思うかです。

だけど一歩掘り下げると、センセーション自体が良いわけではなく、それによってもたらされる快感が良いわけです。だから別の系統で別の快感を得られたら、別にそれでも良い。僕自身、実人生ゲーム症候群みたいになってたわけで、そのあたりはねっちりと過去のエッセイ(シドニー雑記帳の最後の方)に書きましたけど、「絶対無理」みたいな、エベレストみたいな難関を見ると燃えてしまう。必死になって崖に取り付いて、くそ、畜生、負けるかよとか言いながら、無理やり征服するのが楽しい。だけど、もうゲームのネタがなくなったし、なんかやってることが子供じみてるよなーと思ったわけです。

志保さんもそれに似てるのかもしれないです。
で、ラウンドの最後の方にいったHelpXの一軒では、そこがなんとも居心地がよく、自然のたたずまいと自分がシンクロしていく不思議な快感を覚えたそうです。ああ、こういう気持ちよさもあるのか。それは確かに、刺激とか面白さという新規性や珍しさはないのだけど、1日中ぼーっとしていても飽きない。普段だったら退屈で苦痛になりそうなのに、そうはならない。

つまり、別に「面白く」なくても良いのだ、そういうのとはまた違った世界の快感はあるのだと。

なるほどーって思ったのが、志保さんのWH物語の帰結になり、また最初の問題点への「回帰」にもなるということです。

これからどうするの?というと、実はサンシャインコーストの大学院で、子供の福祉関係を専門にしたコースに行こうかと。実は既に「IELTS7点とれば」という条件付きで大学から許可も得ているそうです。

なんでここで大学へ?というと、やっぱオーストラリアの方がそういう領域では進んでるし、日本独自の縦割り行政とかそういうのも少ないし、面白そうだというのが一つ。それにこちらの大学院は現場主義で、半分以上は現場でなんかやってないと単位取れないそうです。だから面白そうだと。学位(修士)はもう持ってるし(国文学だけど)、それがほしいのではなく、現場に居れる、というのが大きいと。

NZのWHも取っていてそれも選択肢のうちなんだけど、もうWHはいいかなと。楽しかったけど、そういう甘味成分の強いスウィーツみたいなものよりも、もっと実のあるゴハンのような、セイバリー(savery)な世界が懐かしくなったと。仕事自体は面白かったそうですし、現実と取っ組み合ってどったんばったんやってるのは、しんどいけど充実感はありますから、それはわかる。

なんでサンシャインコースト?というと、数ある大学のなかでも安いからだと。いや、ほんと高いもんねー。IELTSは、今現在で6.5くらいなので、あと一押しなんだけど、ラウンド中に英語の地頭はよくなったとは思うけど、試験対策ができてない。現場英語と試験英語は違いますからね。とりあえず日本に帰ってからすぐにIELTSを受けるそうですけど、それでダメだったらどうしようかなーと。まあ、でも、根を詰めて点取に集中したらいけるんじゃないかって思う反面、この人の場合「ポーン」がありますから、ちょっと目を離したら、また違った局面に行ってるかもしれません。

いずれにせよまた戻ってくるか、あるいはまた中野かどこかでお会いするでしょう。See you aroundってことで。

この一年、おつかれでしたー。

昨日の残り物で悪いけど、でピーマンの肉詰めを(こちらのピーマン=カプシカムという=は巨大で肉厚で甘味があって美味しい)。

PS:その他、志保さんはバイオリン歴20年で、こちらでも安いのを購入して(意外とちゃんと鳴るらしい)、バスキング(大道芸みたいなやつ)をやったら稼ぎ効率良すぎとか、そこからアート話になって、音楽は他の表現物(絵画、小説や漫画)に比して鑑賞者の参加度が高い(聴いてる人の個人的な記憶や思い入れと音楽が一体になる)んじゃないかとか、生涯にわたって一つのことを執拗に表現してるアーチストの心理はなにかとか、感動の再現性の話とか、いろいろと花が咲いたのですが、全体の脈絡からいって書き入れる場所がないので、ここにちらっと付記しておきます。

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